中国の「債務の罠」とは?
よくテレビやニュースで取り上げられるのが中国による「債務の罠」ですが、一体これはどういう意味なんでしょうか?
「債務の罠」とはお金を借りている国(債務国)の内政や外交、インフラなどがお金を貸している国(債権国)の影響を強く受ける状態のことを指します。「罠」とあるように、高い金利を課すことで対象の国を借金漬けにし、その国の内政や外交政策に著しく干渉することを意味します。イメージとしてはたとえば、読者のみなさんが消費者金融からお金を借りて返せなくなり、消費者金融から車や家を担保に入れられたといった状況に近いといえるでしょう。
国を売った代わりに得た中国からの借金の金を着服するアフリカの汚職政治家の姿を表した風刺画 @denny_ow氏のInstagramの投稿(2019.9/13)より引用
スリランカがこうした中国の「債務の罠」に陥っているとみなしている人々は少なくありません。具体例として、中国はハンバントタ港とマッタラ・ラージャパクサ国際空港建設のために建設費用の85%にあたる金額を年利6.3%でスリランカに融資しました。この背景として中国が国をあげた一大プロジェクトである「一帯一路」の存在があります。
2013年に当時の中国の総書記(国のリーダー)である習近平が「一帯一路」という経済計画を発表しました。これはアジア・アフリカとヨーロッパ間の経済活動を活発化させるためにシルクロードと海上シルクロードに該当する地域にて中国がインフラ整備や貿易促進活動を行い、莫大な投資を行うといった計画です。
スリランカはアジア・アフリカとヨーロッパの間の海上シルクロード上に位置しているので、スリランカは中国の投資対象になりました。
しかし港や空港ができたのはいいもののまったく利益にならず中国からの債務を返済できなくなったため、スリランカ政府は2017年7月から99年間、中国の国有企業である招商局港口にハンバントタ港を租借することを決定します。
これが自国の民間会社だったならまだ良かったのですが、国有会社、しかも中国のとなるとスリランカにとっては厄介になってきます。何故なら、中国には「中華人民共和国国防動員法」という法律があるからです。
第三十一条 被征召的预备役人员所在单位应当协助兵役机关做好预备役人员的征召工作。
从事交通运输的单位和个人,应当优先运送被征召的预备役人员。
日本語訳:第31条 召集された予備役要員が所属する組織は、兵役機関の予備役要員の召集業務の遂行に協力しなければならない。交通運輸に従事する組織及び個人は、召集される予備役要員を優先的に輸送しなければならない
(海外立法情報調査室,「中国国防動員法の制定」,宮尾恵美:118)
中国新聞社(2010.2/26)「中华人民共和国国防动员法(全文)(3)」第三十一条
この法律は中国が戦争や災害などの有事の際に国内・在外中国人に対して国民を動員する権利があることを規定した法律で、第三十一条には有事が起きたときに動員される国民(予備役要員)やその国民の所属している組織(会社や団体など)は動員令に積極的に協力しなければならないことが規定されています。
国防上の必要性が生じた際に戦時統制が敷かれた場合、民間人や民間企業は国に対して、何らかの形で協力しなければならないので、極端な例をいうと現在中国企業が借りているハンバントタ港が中国政府の管理下に置かれて軍事利用される可能性もゼロではないのです。
当然、これはスリランカの周辺国であるインド、中国に対して好意的立場にない国々にとっては脅威になり得ます。インドにとってみれば過去の中印紛争などで敵対していた敵国の影響を強く受けている国家が目と鼻の先にあるわけですから。またスリランカはシーレーンの近くに存在する国なので、この地域が中国の影響を強く受けると、中国と仲の良くない国にとっては脅威となるのは間違いありません。
さらにこれに加えて、スリランカ国民が大統領一族に対して怒りを表した理由に大統領一族と中国の癒着があります。
「2015年の大統領選では、中国の国有企業がマヒンダ・ラジャパクサの選挙活動に数百万ドルを寄付し、ラジャパクサ一族の支持者に数十万ドル相当の贈り物を贈った。その見返りとして、スリランカ政府はハンバントタ港建設計画にて中国が高利子で投資する権利を与えた」とインドのテレビチャンネルであるCNN-News18が報じています。
さらに、ゴタバヤ大統領やマヒンダ首相の弟であるバシル・ラジャパクサ元財務大臣の妻が運営する財団に南コロンボ港の建設を引き受けた中国企業のCICT(コロンボ国際コンテナターミナル株式会社)が1941万ルピー(約724万円に相当)を援助金として支援していたのですが、CICTはその金額を援助金として寄付しておらず、港の開発のために発生した費用として計上したとされていました。つまり賄賂です。このようにスリランカでは大統領一族による中国との汚職が蔓延しているのです。
(原文は「කොළඹ」から始まる、一番最初の段落の文章です。 (News Tube LK:2018.7/6))
主に中国からの借金が返せなくなった上に、大統領一族による汚職の蔓延。こうした要員が特に国民の逆鱗に触れ、今回激しい抗議運動が発生したと言われています。
#Go Home Gota
このハッシュタグは2022年のスリランカの抗議デモを象徴するスローガンで、抗議デモが行われる前からTwitterやInstagram、Facebookに多く出現しました。ゴタバヤ大統領のゴタバヤという名前とGo Homeの語呂がいいことからこういうハッシュタグが生まれたそうです。(意味は「ゴタよ、家へ帰れ」という意味で大統領の座を降りろという意味合いが含まれています。)
僕のスリランカ人の友達によると、多くの国民が今回の抗議デモに参加したそうです。彼女は抗議デモに参加しなかったようですが、多くの大学生などの若者も大統領公邸に押し入りデモ活動を行ったとのこと。相次ぐ生活苦の中、大統領一族だけが甘い汁を吸っていたので国民の怒りが爆発するのも至極当然な話です。

The New York Times,”As they took over the president’s house, Sri Lankan protesters stopped to savor its luxuries.“(2022.7/10)より引用
これはゴタバヤ大統領が暮らしていた大統領公邸の写真です。デモ参加者が足を踏み入れた先にはプールやジム、手入れの行き届いた庭園があったそうです。国中で停電が起きている中、この大統領公邸はきちんと電気が供給されていたそうです。贅沢品を外国からの賄賂で賄っていた大統領一族の生活は、貧しい生活を強いられた多くの国民の生活とは対照的だといえます。
抗議デモの勢いが大統領の想像以上だったためか、ゴタバヤ大統領は2022年7月13日に大統領を辞めることを宣言しました。デモ隊が大統領公邸を占拠する前に、大統領と夫人、二人のボディーガードを連れて飛行機でモルディブを経由し、シンガポールへ亡命しました。恐らくあのままスリランカ国内に留まり続けていたら彼は民衆に暗殺されていたでしょう。
こうしてゴタバヤ大統領は国のリーダーとしての立場を降り、現在はラニル・ウィクラマシンハが大統領を務めています。とはいっても彼も民衆からの支持が少なく、デモ隊へ厳しく弾圧を加えていることから国民とのギャップが生じている状態です。今後どのように国民の貧困を解消し、経済を回復させられるかがスリランカの、そして大統領としてウィクラマシンハ氏に課された課題といえるでしょう。
参考文献
・Department of External Resources, “Foreign Debt Summary” (2021)
・時事通信,「スリランカが『破産』宣言 燃料不足、危機長期化」(2022.7/6)
・Ted Nordhaus,Saloni Shah. Foreign Policy, “In Sri Lanka, Organic Farming Went Catastrophically Wrong“(2022.3/5)
・Gigazine,「『国内の農業をすべて有機農業にする』というスリランカの壮大な計画はなぜ失敗してしまったのか?」(2022.7/14)
・アルジャジーラ, “Tourism in Sri Lanka: One step forward, two steps back“(2022.3/25)
・日本貿易振興機構,「(アジアに浸透する中国)99年租借地となっても中国を頼るスリランカ」新井悦代(2018.10)
・News Tube LK,”තවත් චීන සමාගමක් බැසිල්ගේ පවුලටත් සල්ලි දීලා !“(2018.7/6)
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