一帯一路(いったいいちろ)という言葉、ニュースや会話でなんとなく耳にしたことはあるかもしれません。
でも、「それって結局なに?」「中国が何かやってるってこと?」くらいで、詳しい内容まではよくわからない…そんな方が多いのではないでしょうか?
実はこれ、とても大きな話なんです。
中国が世界中の国と経済的につながっていこうとしている、歴史的にも現代的にもインパクトのあるプロジェクトだからです。
そこで今回は、「一帯一路とは何か」を改めて基礎から整理しながら、要点を押さえてわかりやすくご紹介します。ニュースの背景もきっと見えてくるはずです!
一帯一路とは?

BBC NEWS JAPAN「一帯一路とは? 中国の巨大経済構想」(2024年6月13日)より引用
一帯一路の正式名称はシルクロード経済ベルトと21世紀海洋シルクロードといいます。これは、中国政府が2013年に打ち出した巨大な経済構想のことで、陸と海のルートでアジア・アフリカ・ヨーロッパの国々を「つなぐ」ことを目的としています。
- 「一帯」= 陸の道(古代シルクロードをイメージ)
- 「一路」= 海の道(アジアからアフリカを経てヨーロッパへ)
これを通じて、鉄道・港・道路などのインフラ(社会の基盤)を整備し、貿易や人の交流を盛んにしようというのが狙いです。
たとえば、中国から中央アジアを通ってヨーロッパまで鉄道をつなげたり、インド洋の港を整備したりすることで、人やモノの動きをスムーズにし、経済のチャンスを広げようとしています。
しかし地政学の観点から見てみると一帯一路は、ただのインフラ整備だけではなく、中国が世界での影響力を強めようとする戦略の一つでもあります。
地政学とは、国が地理的な条件(位置、資源、まわりの国など)をふまえてどう動くかを考える学問です。たとえば、中国は南シナ海や台湾の問題を抱えており、周囲がアメリカやその同盟国に囲まれている状況にあります。そこで中国は、陸路や海路を自分たちで築いて、エネルギーや物資のルートを確保し、いざというときでも動けるようにしておきたいのです。
一帯一路に参加する国は150か国以上あり、中には中国からの資金援助を受けて道路や港を建設する国も多くあります。その一方で、中国から借りた融資を返せなくなって港を中国に事実上渡すケースもあり、「経済支援を通じて影響力を強めようとしているのではないか」との声もあります。
つまり、一帯一路とは単なる経済プロジェクトではなく、「道を作る」ことを通して中国が世界の中で有利な位置を確保しようとする、大きな戦略の一部なのです。経済、外交、軍事、そして地図上の動きを通じて、21世紀の国際関係を大きく動かす鍵ともいえるのです。
中国が遠い国々に投資するメリットとは?
一帯一路の概要を見てきましたが、ここで疑問が浮かびます。
なぜ中国は、自国から遠く離れたアフリカやヨーロッパまで、わざわざ多額の投資をしてインフラ整備を進めるのでしょうか?
その理由を、もう少し深掘りしてみましょう!
中国がアフリカや中東、ヨーロッパなど、遠く離れた国々に巨額の投資をしているという話を聞いて、「なんでそんな遠くの国にお金を出すの? 何の得があるの?」と不思議に思ったことはあるかと思います。
実はそこには、単なる経済支援とは違う、いくつものメリットが隠れているのです。
まず一つ目は、新しい市場を開拓できるという点です。
中国は国内の成長が落ち着いてきているため、海外に進出して商品やサービスを売る必要があります。道路や鉄道などを整備して貿易の流れを作ることで、自国の企業が海外でもビジネスを広げやすくなるのです。
次に、中国はエネルギーや資源の多くを輸入に頼っており、石油や天然ガス、鉱物資源などを安定して手に入れるためには、資源国との関係強化が欠かせません。インフラ投資と引き換えに、採掘権や輸送ルートを確保することも、中国にとっては大きな意味を持ちます。
中国の石油輸入依存度(2000-2020)
画像引用元:China’s Oil Security in the Context of Energy Revolution: Changes in Risks and the Hedging Mechanism – Scientific Figure on ResearchGate.
中国の原油輸入依存は70%前後で推移しており、複数の国々から輸入することで、地政学的リスクを分散させている。
さらに、中国が海外で整備している港や交通網は、単なる経済インフラではなく、いざというときに軍事的な拠点として活用できる可能性もあります。つまり、地政学的にも重要な足場を築いているのです。
また、中国はこうした経済的な支援を通じて、相手国との政治的関係も深め、国際会議や国連などで味方を増やす戦略もとっています。
最後に、国内で余っている建設資材や労働力を海外のプロジェクトに活用することで、自国内の経済バランスを保つという狙いもあります。このように、中国が遠い国々に投資する背景には、経済・資源・軍事・外交といったさまざまな思惑が絡んでおり、それは中国自身の「生き残り戦略」の一部でもあるのです。
中国は発展途上国を植民地化しようとしている!?
「中国って、発展途上国にやたらお金貸してるけど、結局インフラ取って乗っ取ってるだけじゃない?」
「アフリカの国々にたくさんお金を貸して、返せなくなったらその国の港や鉄道を奪って支配してるらしいよ。なんだか昔の植民地支配みたいじゃない?」
SNSやニュース、雑談などで、こんな話を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
結論をいうと、
一帯一路が“罠”になるか“助け”になるかは、借金の条件や使い方次第で、一概に「中国が悪」だとはいい切れない。
です。詳しく解説していきます!
冒頭で述べたような疑惑は、借金漬け外交(debt-trap diplomacy)という言葉で語られています。つまり、中国は発展途上国に多額のお金を貸しつつ、返済が難しくなったタイミングでインフラや資源を取り上げて、まるで新しい植民地を作ろうとしているのでは?という批判です。
とくに有名なのがスリランカの例です。中国からの資金で整備したハンバントタ港(Hambantota Port)が、返済がうまくいかなかったことをきっかけに、99年間中国に貸し出されることになったという出来事が「中国に奪われた」と話題(ムーディーズ社やニューヨークタイムズ紙等)になりました。このことは「債務の罠」と呼ばれています。
でも、本当にそれは「罠」だったのでしょうか?
たとえば、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究者ブラウティガム教授は、借金漬け外交という考え方には、十分な証拠がなく、むしろSNSや報道で一人歩きしてしまった“うわさ話”に近い部分もあると指摘しています。
また、経済の専門機関ロジウムグループの調査によると、中国が実際にインフラを「奪った」事例はごくわずかで、むしろ借金の一部を帳消しにしたり、返済の時期を延ばしたりするケースの方が多いと報告されています。さらに、あのスリランカの港の件も、実はスリランカ政府側から「港を貸すことで借金を軽くしたい」と提案したともいわれています。
スリランカは対外債務が歳入の4倍を超える深刻な経済状況にあり、中国からの高金利融資も大きな問題となっています。中でもハンバントタ港への投資は年6.3%という高利で、返済困難となった結果、2017年に港を99年間中国国有企業に貸与しました。ただそれと同じくらい問題なのは、中国企業とスリランカ政権、とくにラジャパクサ一族との癒着や汚職です。選挙資金や財団への不透明な資金提供が発覚し、国民の不信を招きました。高利融資に加え、国内の政治腐敗こそが危機を深めた最大の要因なのです。
つまり、問題なのは借金を「どこの国から借りたか」だけでなく、「どんな条件で、どんな目的に使われたか」という点にあります。
中国からの融資であっても、透明性があり、実際に国の発展に貢献する形で使われていれば、大きな問題にはならなかったかもしれません。逆にどんな国が相手でも、スリランカのように利権絡みで私的に使われたり、不透明な契約が結ばれたりすれば、国家を揺るがす結果につながります。

借金の割合だけみれば、アメリカが一番多い
Department of External Resources, “Foreign Debt Summary” (2021)の資料を基に筆者作成
なので、「中国=植民地を作りたがっている」、「一帯一路=罠」と決めつけたりと、一面的な見方をしていると一帯一路の本質を見誤る可能性があります。重要なのは、融資の条件と、それをどう使うかという各国のガバナンス能力にあるわけです。
ただし、注意すべき点もあります。
最近の研究では、中国がアフリカ諸国に行っている援助や投資が、その国の経済構造に悪い影響を与えることがあるという指摘もあります。とくに、「早すぎる脱工業化」といって、本来ならこれから育つはずの工場や製造業が発展しないまま、人々がサービス業などに移ってしまい、経済の土台が弱くなってしまうという現象が見られます。
これは、長い目で見るとその国の借金返済能力を下げてしまい、結局「返せない国が増える」という状況にもつながる恐れがあるのです。
(廣野美和、『一帯一路は何をもたらしたのか ―中国問題と投資のジレンマ―』、勁草書房、2021年)
また中国はアフリカでインフラ整備を通じて経済発展に貢献してきましたが、その一方で資源の搾取や高利融資、軍事拠点の設置などが「新植民地主義」として批判されています。
現地での雇用創出がある一方、中国人労働者の流入による仕事の奪取や、主権・安全保障への懸念も根強く存在しています。こうした状況に対し、アフリカの一部では中国への不信感が高まりつつあることも一つの事実です。
一方で、アジアの国々では中国の援助がプラスに働いているケースも多く、たとえばカンボジアでは道路や橋の約7割が中国の支援で建設され、ラオスでは中国とつながる鉄道が開通し、移動時間が大幅に短縮されました。ギリシャのピレウス港も、中国の投資で活気を取り戻した成功例とされています。
債務自体は悪ではない!
それではなぜ、アフリカとアジア、、、同じ中国の援助を受けているにもかかわらず、こうも結果が異なったのでしょうか?
その理由は中国側の条件というよりも、借りる国側の「経済の強さ」「政府の計画性」「契約の透明性」「交渉力」などにあります。つまり、一帯一路の成功や失敗を分けるのは、「中国がどう貸すか」ではなく「どんな国が、どんな目的で、どう借りるか」なのです。
これは僕たちの日常生活でも同じです。借金そのものが悪なのではなく、それをどう活用するかが重要だからです。
たとえば極端な話、1000万円の車を買って、それが1年後に確実に1500万円で売れるとわかっているなら、借金をしてでも買うべきでしょう。なぜなら、その投資は借金にかかる利子をはるかに上回るからです。
一帯一路も本質的にはそれと同じです。
たとえ中国からの融資が高金利であっても、それを活用して整備された港や鉄道が将来的に国の経済を大きく押し上げると期待できるのであれば、それは“借金”ではなく“成長のための資金調達”なのです。
資金が手元にない国にとって、それはリスクをとってでも未来を切り拓く貴重なチャンスになりうるわけです。
なので飽くまでも、「誰が」「誰から」「どんな条件で」「どんな目的のために」「いくら借りるか」が一番大切なのです。
とはいえ、中国の影響力拡大を警戒する国々、たとえばアメリカ、日本、オーストラリアなどは一帯一路を「中国による覇権拡大の道具」と捉え、代わりに「自由で開かれたインド太平洋」構想などを打ち出しています。
中でもインドは、中国とパキスタンをつなぐ経済回廊を「自国の主権を侵害するもの」として強く反発しており、スリランカのハンバントタ港が中国に長期貸与されたことにも軍事利用の可能性を含めて強い危機感を抱いています。
こうした国際的な批判を背景に、中国自身も政策の見直しを進めています。2023年の「一帯一路フォーラム」では、従来の“量重視・インフラ偏重”から、「質の高い発展」「環境配慮」「透明性」「持続可能性」などを柱とする八項行動(8つの重点方針)を発表しました。これは、「もう“借金漬け”とはいわせない」という中国側の強い意思表示でもあるといえます。
日本は一帯一路に参加しないの?
アフリカやアジアを中心に、多くの国が中国の一帯一路構想に参加していますが、日本は参加していません。中国と経済的なつながりが深い日本がなぜ参加しないのか、不思議に思う人もいるかもしれません。
実は、日本が一帯一路に参加しない理由は単純に「中国が嫌いだから」ではありません。もっと大きな理由は、中国がこの構想を通じて世界で影響力を広げようとしていることに対して、日本が慎重な姿勢をとっているからです。
たとえば、中国とは海や領土(尖閣諸島)をめぐる問題で対立もあり、中国主導のルールに従うことは日本にとってリスクがあると考えられています。
また、一帯一路で進められるインフラ整備の契約には透明性が足りなかったり、”国際社会の秩序やルール”を重視しているため、そうした点で一帯一路のやり方と合わない部分があるのです。
そのため、日本は一帯一路には参加せず、代わりにアメリカやインド、オーストラリアと協力して「自由で開かれたインド太平洋」という、”自分たちと同じ価値観”を持つ国々を主体とした国際協力の枠組みを進めています。
とはいえ、日本が中国との協力を完全に拒否しているわけではありません。条件が整えば、一緒に進めることもあるという柔軟な姿勢を持っています。
つまり日本は「中国だからダメ」と決めつけるのではなく、自分たちの国益や価値観をしっかり考えたうえで、慎重に判断しているのです。
まとめ
このように、一帯一路をめぐる評価は決して単純な善悪では語れません。中国からの融資で発展した国もあれば、逆に債務に苦しむ国もあります。
そしてその違いは、往々にして中国の行動よりも、受け入れ国の判断力・交渉力・実行力に左右されるのです。つまり本質的な問題は、「中国がどう動いているか」だけでなく、「各国がいかに主体的に、自国の未来を見据えて行動しているか」にあるのです。
中国の動きを一方的に批判するだけでなく、僕たちも世界の国々がどのような形で発展を目指しているのか、その中でどんなパートナーシップが必要とされているのか、じっくり見ていく目が求められているのではないでしょうか。
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