「アフリカの若者(18歳~24歳)の82%は、中国に対して良い印象を持っている。」
今週の火曜日(2024年9月3日)に南アフリカのイチコウィッツファミリー財団(Ichikowitz Family Foundation)は、「アフリカ青年調査2024(African Youth Survey 2024)というアンケート調査を公表しました。
このアンケート調査はアフリカに住む若者(18歳~24歳)5604人を対象としており、アフリカの若者の社会的・政治的な意識や意見がとりまとめられたものとなっています。
この調査によると、なんとアフリカの若者の82%が中国に対して良い印象を持っていて、アメリカよりも中国を好んでいる人の割合が増えているとのことです。
「親米・反中」の割合が非常に多い日本からしてみればこの結果は衝撃的かもしれませんが、一方でこの事実は経済や政治、文化的観点からアフリカ大陸における中国の影響力がいかに大きいかを現しているといえるでしょう。
2050年には世界の若者の3人に1人がアフリカ出身となると予想される中、アフリカの若者たちが政治や社会についてどう考えているのかを知ることは、今後の世界情勢を見通す上で非常に重要な指標となってくると思います。
ではいったいなぜ、アフリカの若者のあいだで中国の評価が高まっているのでしょうか。今回はこのことについて解説いていきたいと思います!
中国はアフリカで何をしているのか
まずは、中国がアフリカでの影響が高まっている背景を追っていきます。
近年、中国は「一帯一路」という世界的な広域経済圏の実現を目指すために、アフリカ諸国に対して長年にわたって大規模な経済支援を行っています。
一帯一路は正式には「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード」と呼ばれ、世界中の国々と経済的なつながりを強化し、貿易やインフラ開発(道路、港、電力設備など)を通じて、経済成長を目指すとともに、関係国との協力を深めることが狙いとなっています。

ニッポン放送 NEWS ONLINEの記事より引用
- 一帯(シルクロード経済ベルト): 古代のシルクロードを参考に、中国からヨーロッパまでの陸上ルートを発展させる計画。道路や鉄道網を整備し、陸上での貿易を促進することが目的。
- 一路(21世紀海上シルクロード): 中国から東南アジア・南アジア・アフリカ・そしてヨーロッパに至る海上貿易ルートの強化が目的。
この国をあげた中国の国家プロジェクトにより、アフリカでのインフラ投資が目覚ましい成果を挙げています。中国がアフリカ各地で道路や橋、港や空港などを建設したことによって、アフリカの多くの国々では、経済成長の基盤を築いています。

CHINA TODAYの記事より引用
鉄道を敷設したり、ダムを建設するには当然ですが人手が必要となってきます。
そのため中国はアフリカの人たちに対して教育や技術訓練の機会を提供し、彼らを使ってインフラ整備を行っています。
米国大手コンサル会社のマッキンゼーアンドカンパニーによると、アフリカにある中国企業では従業員の89%が現地に住むアフリカ人で、アフリカ人労働者の雇用は30万人近くに上ったとあります。中国企業の投資により、見事に現地で雇用を生み出しているわけです。
イチコウウィッツファミリーの調査には、85%の若者が将来仕事の数が足りなくなることを懸念しているとあるのでそうした背景があるなら、中国がアフリカの発展に大きく寄与しているという認識が広がっているのも納得がいきます。

アディスアベバを散歩していると現地民から中国語で「你好」と挨拶されるくらい、
現地での中国の影響力は高い(エチオピア・アディスアベバ)
このように中国は単なる経済的支援にとどまらず、長期的な影響力をアフリカ全体に拡大していることが見て取れます。
「アメリカは爆撃し、中国は建設する」
この風刺画は中国の外交官であるヤン・イーチエン(Yan Yiqiang)がツイートしたもので、イラストにはアメリカが建物を爆撃しているのに対し、中国は建物を建設しているシーンが描かれています。
「中国は建設する」というのは先ほどのアフリカなどに対する経済支援で間違いないと思いますが、「アメリカは爆撃する」というのはどういう意味なのでしょうか?
これは特に中東やアフガニスタンなどにおけるアメリカの軍事介入の歴史を指していると思われます。というのもアメリカは歴史的に政権交代やテロ対策、戦略的利益の保護など、外交政策上の目的を達成するために軍事力を行使することが多いからです。
アメリカは1776年に独立してから、220年以上のあいだ戦争に介入してきた歴史があり、建国以来9割以上の年月を戦争のために費やしてきたことになります。つまりアメリカといえば常に戦争をしている国、なのです。
これだけでもかなりインパクトがありますが、さらにアメリカが東京大空襲をはじめ広島や長崎での原爆投下、ベトナム戦争での枯葉作戦、偽旗作戦であったナイラ証言など戦争に勝つためにはどんな手段も厭わないという姿勢を貫いた結果、アメリカに対する対外イメージはより悪化してしまったのも事実でしょう。
アメリカの軍事力行使に対する批判が高まっている中、中国は(今のところは)軍事力を行使してアフリカを支配しているわけではないので、アフリカ内での中国に対するイメージは良好になりつつあるというわけです。少なくとも戦争ばっかりしているアメリカよりはマシだろう、という感じで。
「債務の罠」と「新植民地主義」
さて、中国がアフリカの発展に大きく貢献していることはわかりましたが、一方で中国のアフリカ支援に対する批判も一定数あります。
イチコウウィッツの調査によれば、17%のアフリカの若者は中国に対して悪い印象を持っているとあります。その理由は色々とありますが、中でも中国企業が現地に十分な利益を還元せずにアフリカの天然資源を輸出し、大儲けしていることに対する批判、中国の経済支援がある意味植民地主義的だという批判です。
よく言われているのは中国の「債務の罠」です。これは日本のメディアでも色々と取り上げられているので有名ですね。

中国の国有企業である招商局港口に租借されることが決定したスリランカのハンバントタ港
写真はスリランカ港湾局のHPより引用
中国から巨額の融資を提供してインフラ整備を行うのはいいものの、中国から借りたお金の返済が困難になった場合、返済の代わりに重要な資源や港、土地などの権益を中国に譲渡しなければならない状況が生まれることがあります。こんな感じで結果的に支援を受けた国が、中国に依存せざるを得ない状態になることを「債務の罠」といいます。
ただハンバントタ港の例は「債務の罠」の象徴としてよく引き合いに出されますが、このようなケースは稀で、「債務の罠」は単純化された概念として批判されています。多くの場合、中国は借入国に対して返済条件を緩和したり、債務を免除する姿勢を示しており、必ずしも強引な手段で権益を奪うことが目的ではないという主張もあります。「中国が一方的にアフリカを搾取している」と決めつけるのではなく、冷静かつ客観的に考えていくべきだと思います。
とはいえ、外国によるインフラ整備が持つリスクは無視できません。特に、戦略的に重要な港湾やエネルギー施設などが外国勢力の管理下に置かれることは、主権や安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、国としての依存が深まることに対して警戒する必要がありますね。
他にも、中国は自然豊かな国立公園の中にも道路を建設しているらしく、中国人投資家がアフリカにある資源を発掘して利益を得ようとしていることが動機なのではないかとも言われているそうです。(YouTuber・原貫太さんの動画より)
さらに2017年には、ジブチに中国初の人民解放軍の海外軍事拠点が建設。
中国はジブチにもインフラ開発に多額の投資を行っており、ジブチは経済的にも軍事的にも中国に依存する関係が強まっています。海上輸送のチョークポイントとなっているジブチは、一帯一路構想の海上貿易ルートを維持するための重要な拠点となっていて、中国からしてみれば絶対に味方にしたい場所なのです。
とはいえ、自分の国に外国の軍事基地があって良い思いをする人は殆どいません。(どうやら日本という国は例外のようですが、、)この動画に出ているアフリカ人のサイラス・ロゼロさんは、「気付かないあいだにアフリカが中国に侵略されている」と中国の批判しています。
ウガンダでは警察官の上官にも中国人の人がいると話していて、ウガンダはある意味中国の植民地になりつつあると主張しています。
また先ほど「現地の中国企業で働く従業員の89%が現地に住むアフリカ人」といいましたが、これは裏を返せば残りの10%近くの人たちは中国人ということです。
中国はアフリカでのインフラ整備に中国人労働者の雇用を促進しています。国内の過酷な競争や失業率の増加も相まって、アフリカへ移住する中国人の若者が増えているそうです。こうしてアフリカ全土で、20万人以上の中国人がインフラ整備に携わっているとされています。
将来的に中国人労働者の数が増えていけばその分、現地民の仕事が奪われると考えている人も少なくなく、そのことが中国に対するイメージの悪化に繋がっていると考えられます。
西洋諸国の残虐な植民地時代を経験したアフリカにとっては、中国の「新植民地主義」はまだ「マシ」なのかもしれない。そういう考えもあってか、アフリカではヨーロッパ諸国よりも中国の方が良い印象を持たれやすいのでしょう。

刑罰として手首を切り落とされていた(コンゴ自由国, ca. 1900)
今後のアフリカと中国
現在、中国がアフリカで果たしている役割は、ただ単に経済支援やインフラ開発にとどまらず、アフリカの若者たちの未来を形作る重要な要素となっています。教育や雇用の機会を提供し、技術訓練を通じて彼らのキャリアを支援する中国の影響力は、現地の生活水準向上に直接つながっていることも一つの事実です。
ただ長期的な視点から考えれば、アフリカ諸国は自国の主権と経済的な自立をどのように守りながら、外部からの影響力と共存していくかが鍵となるでしょう。
アフリカの若者たちが中国をどう見るかは、アフリカの将来にとって非常に重要なことです。今後、経済的発展と共に、彼らが自国の未来をどう形作っていくかが、世界の地政学的なバランスにも大きな影響を与えると思います。
2050年には世界の若者の3人に1人がアフリカ出身になると予想されている中、アフリカの若者たちがどのような価値観やビジョンを持つかが、世界の未来を決定づける要因となります。中国との関係は、その未来を形作る一要素に過ぎませんが、今後も彼らが自立と発展を追求していく姿勢が、世界的に注目されることになるのでしょう。
「【アフリカ=親中?】アフリカの若者82%が中国好きな理由とは?」への1件のフィードバック