中央アジアを旅すると、街の至るところで中国の存在を感じます。
バザールに並ぶありとあらゆるものは中国産のものが多く、建設中の道路やビルには中国企業の看板が掲げられている。さらに現地の若者に話を聞くと、「中国語を熱心に勉強している」という声まで。
観光の途中で何気なく目にするこうした風景から、「中国と中央アジアの関係」が日常生活にまで浸透していることを実感しました。なぜいま中国の存在感が中央アジアで増しているのか?
今回は、旅人目線で感じたリアルな中国の存在感をお伝えしていきます!

出典:外務省『外交青書2023』第2章第6節『中央アジア・コーカサス諸国』より引用
バザールで気づく「中国の足跡」
中央アジアの街を歩くと、まず足が向くのがにぎやかなバザール。
果物や香辛料の香りに包まれながら店をのぞいていると、ふと意外なことに気づきます。売られている日用品や衣類、スマートフォンのアクセサリーは勿論、野菜や果物に至るまで、その多くが中国産なのです。
野菜や果物の入った段ボール箱をよく見ると、印字された文字はほとんど中国語。漢字を見る限り新疆産のものでしょうか?観光客の目線でもすぐにわかるほど、中国の食べ物が生活の隅々に入り込んでいます。
実際にインターネットで調べてみても、中国から中央アジア諸国への果物や野菜の輸入量は増加していて、カザフスタンでは品質の高い中国産の新鮮な農産物に対する需要が強いそうです。

当然、地元産のものもありますが、中国からの食べ物はすでに地元の人々にとって“なくてはならない存在”になっているようでした。
ただよく考えれば、それも当然かもしれません。
中国と中央アジアは国境を接しており、トラックで国境を越えればすぐに大量の食料や生活用品を運び込むことができる距離感です。物流の近さと価格の安さを考えれば、地元の市場に中国産の品があふれるのも不思議ではありません。

旅行の最初の一歩から、「中国の影響は経済だけじゃなく、日常生活の中にまで浸透しているんだな」と実感させられます。
シルクロードから一帯一路へ
中央アジアを旅していると、いたるところで歴史と現在が重なっているような感覚にとらわれます。サマルカンドやブハラの古いモスクやバザールに立つと、かつてここを通って中国から絹や陶磁器が運ばれ、代わりに香辛料や宝石が西へ向かった往時のシルクロードを自然と思い起こさせます。
この古代より続く東西交易路は、現代に入っても形を変えて生き続けています。
2013年に習近平国家主席がカザフスタンのナザルバエフ大学でシルクロード経済ベルト構想を初めて提唱しました。いわゆる一帯一路構想は、まさに中央アジアを起点に中国からヨーロッパへとつながる新しい交易路を築くという壮大な試みです。

BBC NEWS JAPAN「一帯一路とは? 中国の巨大経済構想」(2024年6月13日)より引用
ここで注目すべき点は、この歴史的な演説が中国国内でもヨーロッパでもなく、カザフスタンで行われたという点です。
中央アジア最大の国であるカザフスタンは、東は中国、西はロシア、そしてさらにヨーロッパへとつながる要衝に位置しています。古代シルクロードの時代から、まさに文明の回廊として機能してきた土地でもあります。
習近平がこの地を舞台に選んだことは、象徴的な意味合いが強いといえるでしょう。すなわち、「現代のシルクロードの出発点はここにある!」と宣言したに等しいのです。
中国が中央アジアを単なる通過点としてではなく、自国の経済戦略の要として位置づけていることを、世界にアピールする狙いがあったと考えられます。
実際に、旅行者の目にも一帯一路の存在感はわかりやすく映っています。
たとえばウズベキスタンに行くと、中国企業が建設した道路の標識や工事現場を何度も目にするし、カザフスタンのアルマトイでは、中国の融資によって整備された鉄道網が動脈のように国境を越え、貨物列車が西へと走っていきます。
こうした動きは数字にも表れています。たとえばカザフスタンでは、中国はすでに最大級の貿易相手国のひとつとなっており、エネルギーや鉱物資源の分野では中国企業が重要な利権を押さえています。キルギスでも地元経済の中国への依存度が高まっているのが現実です。
つまり、かつてのシルクロードが人や文化の交流をもたらしたのと同じように、現代の一帯一路もまた、この地域を通じて東西を結ぶ新たなルートを形成しつつあるのです。
ただ違うのは、かつてのキャラバンがゆっくりとオアシスを渡っていたのに対し、現代は巨大な資本と国家戦略が動かしているという点でしょう。
旅行中に見かける中国語の看板や中国企業のロゴは、一見ただの新しい風景のように見えますが、その背後には数千年にわたる「東からの流れ」が脈々と続いていることを実感させられます。

現地の人々が語る中国への本音
このように中央アジアの街を歩いていると、中国の影響力は確かに強く感じます。しかし、現地の人々に話を聞くと、少し違った視点も見えてきます。
では、現地の人たちは中国をどう見ているのでしょうか?僕が実際に中央アジアを旅行して感じた印象と、統計データを照らし合わせてみると、意外な傾向が見えてきます。
| 国 | 中国への好感度(%) | 傾向 |
|---|---|---|
| タジキスタン | 60%(2022) | 経済的パートナーとして評価する一方、パミール高原の領土問題で懸念する人も |
| キルギス | 65%(2022) | ソ連時代の反中プロパガンダの影響や、中国経済への依存に対する警戒感 |
| ウズベキスタン | 32%(2022) | 中国による経済支配の可能性を脅威に感じる声が多い |
| トルクメニスタン | 71.6%(2023) | 中国の投資による雇用増加に期待する声が強い |
| カザフスタン | 51%(2022) | 一帯一路への疑問や経済依存への警戒感も併存 |
このように中央アジアの国々では、経済的パートナーとして中国を評価する声がある一方で、意外と多くの人が中国に対して疑問や警戒心を抱いていることもわかります。
キルギスでは特に「中国という大国に飲み込まれてしまうのでは」という警戒感が根強いです。ある現地の人はこう語ります。
「中国は巨大な磁石で、周りの小さな国すべてを引き寄せている。経済成長のためには彼らは必要だが、用心していないと国を奪われかねない。」
Tom Miller (2017), CHINA’S ASIAN DREAM Empire Building along the New Silk Road, 田口未和訳 (2018), 中国の「一帯一路」構想の真相, 株式会社原書房
実際僕も現地の人と話していた時に「中国企業は仕事をもたらしてくれるけれど、一緒に来る中国系の人々とはあまり関わりたくない」という声を耳にしたことがあります。現地の市場や工事現場で目にする中国人は多いものの、地域社会に溶け込むというより、どこか別のコミュニティを形成している印象だそうです。
さらに、中国語話者自体はそれほど多くないのも現実です。ロシア語や現地語が優勢な環境では、中国語を流暢に話せる人は限られ、現地の人々にとって中国との距離感は「経済的には近いが、生活や文化ではまだ遠い」という微妙な感覚があります。
こうした声からも、中央アジアでの中国の存在感は確かに大きいものの、単純に「中国人がどこにでもいる」というわけではないことがわかります。経済力と社会的な受け入れの差が、現地での中国の評価を少し複雑にしているのです。
また、領土問題も現地の人々の中国に対する感情に影響しています。
僕がタジキスタンの首都ドゥシャンベで出会ったおじいさんは、笑いながらも真剣な表情でこう話してくれました。
『中国はとても問題だ。私たちから領土を奪ったんだ!』
この言葉からも、中国への警戒心が単なる経済的な不安だけではなく、歴史的・領土的な背景にも根ざしていることが伝わってきます。
まとめ
中央アジアを旅して感じたのは、中国の影響力が経済やインフラだけでなく、日常生活の隅々にまで浸透していることです。バザールに並ぶ食材や日用品、街角の看板や工事現場には中国の存在が色濃く映ります。
しかし、現地の人々の声や統計を見れば、単純に「中国が歓迎されている」とは言えない微妙な距離感もあります。経済的なパートナーとして評価する一方で、領土問題や文化的な距離、そして中国系移民への警戒感など、複雑な感情が入り混じっているのです。
古代のシルクロードのように東西を結ぶ役割は現代でも続きつつありますが、その背景には数千年にわたる歴史と、現代の国家戦略が絡んでいることを改めて実感しました。
旅人目線で見た中央アジアと中国の関係は、ただ数字や報道で知るものとは少し違います。街を歩いて、現地の人たちの声に耳を傾けることで、「経済的には近いが、生活や文化ではまだ遠い」という、この複雑な地域ならではのリアルな中国の存在感を肌で感じることができたのはとても貴重な経験だったと思います!