「ロシア語より国語優先 キルギスが法案可決」
そんな見出しを高々と掲げたのは、AFP通信。記事によれば、2025年6月25日、中央アジアの国・キルギスの議会はテレビやラジオの放送において、公用語であるキルギス語の比率を60%以上にする法案を可決したとのこと。
AFPはこれを「ロシア語よりも国語優先」と明言する異例の動きと捉え、ウクライナ侵攻を契機に、中央アジアでもロシアの影響力が低下している証拠だと報じました。
ですが、、、この記事を見たとき正直、僕は少し違和感を覚えました。
というのも実際に中央アジアを旅したとき、現地でロシアへの強い反発を感じたことはあまりなかったからです。むしろ、ロシア語も文化もまだまだ日常に溶け込んでいた印象がありました。
果たして、中央アジアの“ロシア離れ”は本当なのでしょうか?
今回は言語政策や外交戦略、世論調査など、さまざまな角度から中央アジアの”ロシア離れ”の実態を、実際に旅行してきて感じたことも含めて掘り下げていきたいと思います!
本当にロシア離れ…?
「中央アジアでロシア離れが進んでいる」
そんな見出しがウクライナ戦争以降、メディアで多く見られるようになりました。
特にキルギスで進められているテレビ・ラジオ放送のキルギス語化法案などは、ロシア語の地位低下の象徴として注目されています。
しかし、こうした動きをもって単純に「ロシア離れ」と断じてしまってよいのでしょうか?
まず中央アジアでのロシア語の立ち位置をみてみましょう。
ロシア語はこの地域では単なる外国語ではなく、教育や行政・ビジネス・メディアなど、社会のあらゆる領域に深く根ざした共通語としての役割を長年果たしてきました。
現地でロシア語を話すことは政治的なメッセージではなく、日常生活の一部のような感じであることが多いのです。
今回のキルギス語化法案も単なるロシア語の排除ではなく、「国語としてのキルギス語の存在感を高めたい」というナショナリズム的意図が中心だと考えられます。
そして重要なのは、こうしたナショナリズム的動きがロシアのウクライナ侵攻以降に突発的に起きたわけではないという点です。
- ・カザフスタン… 2017年にキリル文字からラテン文字への移行を打ち出し、ロシアの影響を少なくしようと模索。
- ・ウズベキスタン… 独立直後からウズベク語第一主義を掲げ、地名変更や教育カリキュラムの見直しを推進。
つまりこれらの動きはロシアとの関係を再定義し、自国の文化や言語を再評価しようとする独立国家としての成熟過程の一環に過ぎないのです。
「ナショナリズムの高揚=反ロシア」とは限らない!
そして決して忘れてはならないのは、「ナショナリズムの高まり=ロシア離れ」ではないということです!
中央アジアで見られる言語政策や文化的自立の動きは、たしかに国家としてのアイデンティティを強めようとするナショナリズムの表れですが、それは決して即座にロシアとの対立を意味するものではないのです。
むしろ、自国の言語や文化を大切にしながらもロシアとは敵対せず、あくまでうまく距離を取りながら付き合うという、極めて繊細で現実的な選択なのです。
ではなぜ中央アジアの国々は多方面外交を行っているのでしょうか?
それを理解するには、まず地図を広げてみるのが一番です。
というのも中央アジアはロシア、中国やインド、イラン、パキスタン、トルコ、そしてヨーロッパという大国や大市場にぐるりと囲まれた、まさに”文明の交差点“に位置しているからです。

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どこか一つの国あるいは一つの勢力の国々とだけ深く付き合ってしまうと、他との関係がギクシャクしかねないのです。だからこそあえてどこにも偏らず、どことも敵対しない――そんなバランス感覚のある外交が求められるんです。
たとえばウズベキスタンはロシアと友好関係を続けながら、中国からは経済投資を引き出し、さらに欧米やトルコとも関係強化を進めています。
これは「どっちつかず」ではなく、「どっちも活かす」ための知恵なんです。
ロシアのウクライナ侵攻以降、中央アジア各国はますます慎重に外交の舵取りをせざるを得ない状況となりましたが、それは単なる“ロシア離れ”ではなく、あくまで「過度な依存からの自立」を目指すもの。
自国の言語や文化を大切にしつつもロシアとは敵対せず、現実的に付き合っていく。その柔軟さこそが、いま中央アジアが選んでいる道なのです。
たとえばキルギスでは、GDPの約3割が国外からの送金によって支えられており、その多くはロシアで働く出稼ぎ労働者からのものです。
また、ロシア主導のユーラシア経済連合(EAEU)に加盟していることも、ロシアとの関係をすぐに断ち切れない理由のひとつです。
実際、ウクライナ侵攻後も多くの中央アジア諸国はロシアを明確に非難せず、欧米の対露制裁にも加わらず中立を保ち続けています。これはロシアを支持しているわけでも、批判を恐れているわけでもなく、両者との関係を慎重に保ちながら自国の利益を最大化しようとする「バランス外交」の一環なのです。

中央アジアはキルギスを除き、中立を保っている。(キルギスは”ロシア寄り”を表明)
画像はChubit, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0より引用
ウズベキスタンの多方面外交もいい例です。
ロシアとの友好関係を維持しながら中国やトルコ、欧米諸国とも経済連携を強化する姿勢は、ロシア依存からの脱却と国家としての主体性の確立を目指す戦略的な動きだといえます。
キルギスもロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)から脱退した一方で、中国主導の上海協力機構(SCO)には引き続き加盟していており、多方面な外交姿勢を貫いています。
敵をつくらず、誰にも依存せず、様々な選択肢を持つ――それが中央アジア諸国の現実的な道なのです。
中央アジア各国は親露なのか?
中央アジアの国々は、一見するとロシア語を制限する法律や文化的自立の動きから「ロシア離れ」が進んでいるように見えるかもしれません。しかし実際の世論はどうなのでしょうか?
ここでは、各国の人々がロシアに対してどのような感情を抱いているのかを示す最新のデータをもとに、ロシアに対する好感度を可視化してみました!
| 国 | ロシアへの好感度(%) (2017-2019 ➡ 2022) | 傾向 |
|---|---|---|
| タジキスタン | 78%→95% | 高い友好感が安定 |
| キルギス | 85%→約65% | 批判は少なく、米・ウクライナへの責任論強め |
| ウズベキスタン | 74%→約65% | 安定感ありつつも世代間で変化 |
| カザフスタン | 79%→13%(急落) | 若年層中心に「ロシア離れ」の傾向が強まる |
中央アジア諸国ではロシアに対する感情は一見すると親露が主流のように見えますが、実際には世代間で大きなギャップが広がりつつあります。
ロシアのテレビなど旧来メディアに依存する高齢層はロシアへの支持が根強い一方で、YouTubeやTelegramといった多様な情報源に触れる若年層では、ウクライナ寄りの姿勢や中立的な意見が増加していることが明らかになっています。(Demoscope)
実際に僕が2025年の4月に行ったタジキスタンでは、高齢者の人ほどロシアを支持している人が多かったですが、若い人は比較的ロシアに対して懐疑的な意見を持つ人もすくなくありませんでした。
こうした現象はカザフスタンをはじめとする各国で共通しており、ウクライナ侵攻をきっかけに、従来の親露志向に対して世代や地域による揺らぎが生じているのです。
外交面ではいずれの国もロシアとの関係を一方的に断つことなく、中国や欧米諸国との連携も模索する戦略的バランス外交を続けていますが、国内の意識には少しずつ変化の兆しが見え始めている。それが現在の中央アジアの姿だといえるでしょう。
まとめ
中央アジアの「ロシア離れ」は、単純な対立構造では語れません。
そこには、言語・文化・外交・経済が複雑に絡み合う“グラデーション”のような現実があります。現地を旅して感じたのは、「親露」か「反露」か…そんな白か黒かでは測れない現実があるということです。
だからこそ、「ロシア語より国語優先=ロシア離れ」と一言で結論づけるのではなく、「より自立した外交を選びはじめた」と捉える視点が大切だと思います。中央アジアの国々はどこか一国に寄りかかるのではなく、自分たちの足で立ち、自らの立ち位置を模索しているのです。
そしてそれは実は僕たち日本にも通じる話かもしれません。日本は過度にアメリカに“依存”している部分があります。だからこそ、中央アジア諸国のような、多方面に目を向けた柔軟な外交姿勢から学べることは多いはずです。
旅を通して見えてくるその国の実情…それは、ニュースの見出しだけではわからない「生きた国際関係」そのものです。だからこそニュースやネットだけではなく、現地に行って実際に自分の目で見て、感じて、考え続けることが大切なのではないでしょうか。
旅先の何気ない現地の人たちの会話、使われている言語、街に並ぶポスターの文言...
そうした小さな発見から、その国が今どこに向かおうとしているのかが見えてくる。
ただの観光だけでは見えてこない、「その国のリアル」を発見することで、旅はもっと深く、もっと面白くなる――そう信じて、僕は旅を続けています。
「【中央アジアのロシア離れは本当?】意外な実態と背景を詳しく解説!」への1件のフィードバック