Liberté, Égalité, Fraternité
フランスといえば、このスローガンが思い浮かびますね。フランス革命を経て、今もなお国の基本的な建国理念として広く認識されています。この「自由・平等・友愛」という理念は、フランス社会の象徴ともいえるものです。
しかし、現代のフランスではこの理想がどれほど実現しているのか、疑問に思ったことはありませんか?
2018年のサッカーワールドカップでは、フランス代表は見事に優勝しました。特にキリアン・ンバッペの活躍が注目を集め、フランス中が一つになった瞬間がありました。その熱狂から生まれたのが”Liberté Égalité Mbappé“という、自由・平等・友愛をもじったスローガンです。
しかし、ンバッペの活躍でフランスが一時的に団結したとしても、それが本当に「自由・平等・友愛」を実現した証と言えるのでしょうか?フランス社会全体でこの理想がどれほど実感されているのか、疑問が残ります。
それでは、フランス社会におけるこの理想と現実のギャップはいったいどこにあるのでしょうか?
ンバッペとは?
Embed from Getty Imagesキリアン・ンバッペ(Kylian Mbappé)は、フランス代表のスーパースターサッカー選手。
特にスピードと卓越した技術で名を知られていて、サッカーワールドカップでもその実力を遺憾なく発揮。2018年のワールドカップでは、わずか19歳でフランス代表として優勝に貢献し、フランス国内だけではなく世界中の注目を集めました。
サッカー界の王様ペレからも、「ンバッペは私の後継者になれる選手だ!」と絶賛され、その将来性に大きな期待が寄せられています。今や、彼は世界でもトップクラスのサッカー選手の一人として広く知られています。
Liberté Égalité Mbappé
2018年7月21日、サッカーワールドカップ優勝の余韻が冷めやらぬフランスで、フランスの音楽グループであるL.E.Jが「Liberté, Égalité」という楽曲を発表しました。
この曲の中で特に注目を集めたのが、曲中に出てくる”Liberté Égalité Mbappé“という歌詞です。これはワールドカップで輝きを放ったフランス代表の若きエース、ンバッペへの賛辞であると同時に、フランス社会の抱える複雑な現実を反映したメッセージでもあります。
ンバッペが育った郊外(バンリュー)は、多くの移民系住民が生活する地域。しかし、その環境は厳しいもので、失業率の高さや貧困、教育機会の格差、そして人種差別といった問題が、日常生活に重くのしかかっているのです。
実際、フランスでは「バンリュー」という単語自体がネガティブな響きを持っていて、「パリの街で悪さをするのはバンリューから来た若者たちだ」、「バンリューは危ないから近づくべきではない」といった声が多く、郊外出身というだけで社会的に見下され偏見の対象となることも少なくありません。
そのため、多くの住民が社会から孤立し、他の地域の人々と交わる機会も限られがちなのです。
そんな環境で育ちながらも、ンバッペは自らの才能と努力で壁を乗り越え、ワールドカップ優勝という成功をつかみ取りました。ンバッペは郊外の希望の象徴であり、彼の活躍は郊外の多くの若者たちに「自由・平等・友愛」というフランスの理想を感じさせました。

ワールドカップでのンバッペの大活躍を記念して、彼が育った郊外のマンションに貼られたポスター
Le Parisienの記事より引用 © Le Parisien
L.E.Jの皮肉とメッセージ
2018年、フランス代表がワールドカップで優勝を果たした瞬間、フランス全土が歓喜に包まれました。
シャンゼリゼ通りにはフランス国旗を手にした人々が集まり、国民全体が一つになったように見えました。
この熱狂の中で、普段は社会の周縁に追いやられがちな移民系住民も、この時ばかりは「フランス人」として迎え入れられたのです。
まるでワールドカップという祭典が、一夜限りの魔法のように全ての隔たりを取り払い、「自由・平等・友愛」という理想を実現したかのように。
Embed from Getty Imagesしかし、ワールドカップの熱狂が冷めると、フランス社会の現実は再びその姿を現します。
郊外に住む移民系住民たちが直面する差別や貧困、社会的不平等といった課題は何一つ解決されていません。
ピッチの上でフランス代表が見せた一体感とは裏腹に、日常生活では彼らは依然として「移民」や「外国人」として扱われ、排他的な態度に直面することが多いのです。
フランス代表の勝利によって、移民系住民たちは一瞬の希望を感じましたが、それが日常の中で実感されることはありませんでした。
そして移民側の姿勢にも焦点を当てる必要があります。
たとえば、2005年のパリ郊外暴動や、2023年に起きたアルジェリア系の少年ナエル・メルズークが警察官に射殺されたことを受けた暴動など、移民が絡む社会的不安はフランスで繰り返されています。
これらの出来事は、移民を受け入れる側と移民側の双方に課題があることを浮き彫りにしているといえるでしょう。
「自由・平等・友愛」の理念を真に実現するためには、社会全体が互いの課題に向き合い、具体的な改善を模索していく努力が必要不可欠。L.E.Jの楽曲は、この複雑な現実を背景に、フランス社会が抱える矛盾を鮮烈に描き出しています。
そういった意味で、「自由・平等・友愛」という国家理念が”理想“に過ぎず、実際はワールドカップというナショナリズムが高まるとき以外は、フランス社会が一つになって団結することはないという”現実“をL.E.Jは皮肉っているのです。
理想を現実に変えるために
L.E.Jの「Liberté Égalité」は、単なるスポーツへの賛歌ではなく、フランス社会の矛盾を鋭く批評する曲であることがわかりました。
フランス社会における真の変革は、ただ表面的な団結を求めるのではなく、移民と受け入れ側の双方が直面している問題に真摯に向き合うことから始まるのではないでしょうか。
フランスが抱える「自由・平等・友愛」の理念を実現するためには、時間と努力をかけた社会的な変革が不可欠であり、その道のりは決して簡単ではありません。
L.E.Jは、その鋭い歌詞と音楽を通じて、人々にこの現実を問いかけ、理想と現実のギャップを埋めるための意識改革の必要性を訴えかけています。
真の「自由・平等・友愛」を実現するために必要なのは、特別な瞬間だけの団結ではなく、日々の生活の中で互いを理解し、共に生きる努力を続けること。そのメッセージを、この楽曲は強く伝えているのです。
「【フランスと移民】:音楽が物語る理想と現実のギャップとは?」への1件のフィードバック