最近、街を歩いていると、外国人を多く見かけるようになったと感じませんか?英語や中国語、インドネシア語など、様々な言葉が飛び交い、京都や鎌倉などの観光地では以前に比べて格段と外国人が増えたように感じますよね。
こうした日本に住む外国人の増加に伴い、社会にはさまざまな変化が生じています。同じような事例で、フランスでもここ数十年間で移民が増加し、それに伴って社会問題化しています。
たとえば、移民が増えると、仕事の取り合いや、文化や言葉の違いによるすれ違いが増えたり、治安の悪化がたびたび問題となっています。こうした移民の増加によって生まれる課題や、社会を取り巻く問題のことを移民問題といいます。
フランスでは今、この「移民問題」が社会の大きな関心事になっています。では、なぜこうした問題が起きるのか?そして、どのように解決していくべきなのか?この記事では、フランスで実際に起きている移民問題をわかりやすく解説していきます!
結論を言うと、フランスの移民問題は主にこの4点です。
- 経済格差と貧困が引き起こす課題
- 移民統合政策の課題
- 移民への固定観念や差別意識
- 宗教行為と政教分離との対立
移民って何?
移民問題を解説する前に、まずは「移民」の定義をはっきりさせておく必要があります。
フランス国立統計経済研究所(INSEE)というフランスの国立研究所は、移民とは誰のことなのか、このように定義しています。
移民とは、外国人として外国で生まれ、フランスに居住している人を指す。
INSEE, ”Immigré”, Définition
(Selon la définition adoptée par le Haut Conseil à l’Intégration, un immigré est une personne née étrangère à l’étranger et résidant en France.)
つまり、外国生まれでフランスに移り住んできた人たちを「移民」として定義しているわけです。
一方で、「フランス人」とは、フランス国籍を保持する人々を指します。国籍とは人が特定の国の構成員であるための資格のことを指し、たとえばフランス国籍を持っているというのは、その人がフランス人であるという意味なのです。
これは日本でも同じで、日本国籍を持っている人は人種的に外国人でも日本人となります。なので人種がロシア人だろうが、トルコ人だろうが、日本国籍を保持している以上は、日本人として扱われます。
日本に住んでいる人の多くは大和民族であり実質的に単一民族国家に近い国なので、どうしても日本人といえば大和民族の”純日本人”と思いがちですが、一般的には◯◯国籍=◯◯人という認識となります。
フランスの移民の歴史
フランス国内の移民の割合は年々増えています。
2021年には、移民がフランスの総人口の10.3%、約700万人を占めるまでに増加していて、これは100年前の150万人と比べると約4.7倍の増加となっています。

INSEEの”L’essentiel sur… les immigrés et les étrangers “記事内のデータを基に筆者作成
今でこそ移民受け入れ国として重要な役割を担っているフランスですが、もともとフランスは、18世紀まではヨーロッパの国家の中で最も人口が多く、移民受け入れ国というよりかはむしろ、植民地を求めてフランスからケベックやルイジアナに移住した人々の多い移民排出国でした。
フランスから他国に移住するグループのことを“Émigré(エミグレ)”といい、他国からフランスに移住するグループは“Immigré(イミグレ)”といいます。
しかしその後、ナポレオン戦争後の1830年代からフランスの移民受け入れの流れが活発となり、主にイタリアやスペイン、ポルトガルといった南欧出身の移民が相次いでフランスに居住するようになります。
さらに19世紀に入ると、産業革命の進展と鉄道建設などのインフラ整備に伴い、特に南欧から多くの労働者が南フランスの工事現場で働くようになります。
「外国人労働者に仕事を奪われるのではないか?」
こんな不安からフランスでは外国人労働者に対する排外運動も起こり、1886年には「外国人によるフランスへの平和的侵入(G. Marchal-Lafontaine, ”L’Invasion pacifique de la France par les étrangers”)」という著書が発表され、1899年には外国人労働者の割合を制限するミルラン法(Décret du 10 août 1899)という法令も施行されました。

Paul Destez, “Les troubles de Lens et de Liévin”, “Mineurs belges demandant la naturalisation à la mairie de Lens“, “Mineurs belges quittant Liévin“, L’Univers Illustré ガリカより引用
むかしから外国人移民や労働者との衝突は多少あったものの、いま問題となっているイスラム系移民に関する問題と比べて違うのは、当時は彼らが「外国人」として強く意識されていなかったこと、また、移民の文化的背景が原因で排外運動が起きたわけではないという点です。
イスラム系移民とフランスの共生の壁
その後、20世紀に起きた第二次世界大戦では多くのフランスの人たちが戦死し、戦後のフランスは深刻な労働力不足に直面します。
経済復興のためフランスは、旧植民地であるマグリブ諸国(アルジェリアなど)から多くのイスラム系移民を受け入れました。
つまり、戦争などの要因で出生率の低下が移民受け入れの流れを促進していることがいえ、国内の生産人口が減少した時に移民を受け入れるというメカニズムがあるのです。
少子高齢化で生産人口が現在進行形で減少している日本が移民受け入れを強化しているのもこうした背景があります。
彼らはフランス語教育を受けていたのでフランス語が通じ、地理的に近いことから移民労働者として選ばれ、当初は出稼ぎ労働者として滞在していましたが、1970年代には家族移民が認められ、フランス社会でイスラム文化が広まりました。
これに対し国民連合などの右派政党が反発を強め、移民制限が導入されたものの、フランス建国の理念(自由・平等・友愛)に反するとして1976年に再度受け入れが承認。
1980年代以降、移民の高い失業率や差別意識が問題視され、移民2世による「ブールの行進」(1983年)など移民に対する人種差別への抗議運動が発生。

Slateの記事より引用
以降、フランスは「移民流入の抑制」と「社会統合」(フランス人としてフランスに同化させること)、この2つを軸とした政策を展開するようになりました。
しかし、こうした同化政策はイスラム系移民とフランス社会との宗教や文化の摩擦を浮き彫りにしていきました。
現在もなおフランスでは、移民とその二世・三世が抱える社会経済的な課題や、文化的な違いに由来する摩擦が続いており、いかに「多様性」を受け入れながら社会の安定を保つかという課題が重要なテーマとなっています。
移民に対する偏見
移民グループに向けての偏見や差別的言動も移民問題の一つといえるでしょう。
勿論、こうした差別的言動は一部の人々によって行われているものに過ぎませんが、こうしたステレオタイプが根付いていった背景にはメディアの影響も少なからずあります。
たとえば、1949年9月16日付のル・モンド紙には、「北アフリカ人の犯罪は国民的課題となった」という見出しの記事が一面に掲載されました。
この記事では、当時増加していたアルジェリアからの移民に対し、北アフリカ系移民が犯罪を起こしやすいかのような偏見を助長する内容が含まれていたのです。
一晩にして四件もの襲撃事件が発生した。レジの従業員がアラブ人に襲われたのである。これはまさに今、起きている出来事なのである。ここ数ヶ月のあいだで発生している襲撃事件の8割は北アフリカ人が犯人なのだ。だが、この悪夢は真新しいことではなく、戦争から生まれたものなのである。
Le Monde, ”LA CRIMINALITÉ NORD-AFRICAINE SOULÈVE UN PROBLÈME NATIONAL”, Jean-Marc Théolleyre, 1949年9月16日
(Quatre agressions en une nuit. Un encaisseur assailli par un Arabe. C’est la saison. Depuis quelques mois quatre-vingts pour cent de ces attaques ont été commises par des Nord-Africains. Mais le mal ne date pas d’aujourd’hui. Il est lui aussi né de la guerre.)
この論説では、北アフリカからの移民の多くが襲撃事件を引き起こしていることを“悪夢”と強調しています。
あたかも「北アフリカ人」という特定の人種が犯罪者グループであるような印象操作がされており、こうした報道が、特定の人種への不当な扱いを容認するような雰囲気を醸成してきたことは否定できません。
移民に対する偏見や差別は、フランス社会が抱える問題の一つとして現在も存在しています。
イスラム移民たちの統合と葛藤
フランスでのイスラム系移民の統合(Migrant integration)には多くの課題があります。
移民二世の若者たちは、フランス社会に同化しつつも、家族の伝統やイスラム文化とのあいだでアイデンティティのジレンマを抱えています。
多くのイスラム系家庭では、断食(ラマダーン)やハラール食の実践といった宗教的な伝統が守られている一方で、移民二世たちは「フランス人」としての自分を意識し、そのアイデンティティに疑問を感じる場面も多いのです。
一部の移民の若者たちは、自分の存在やアイデンティティを主張するためにテロ行為のような暴力的な手段に傾倒することもあり、この現象がイスラム過激主義と結びつけられることもあります。
事実、2015年のパリ同時多発テロ事件には移民系のフランス人(サラ・アブデスラム)が関わっていました。

しかし、すべての移民の若者が暴力的な手段を取るわけではない以上、単に移民とテロリズムと結びつけるのは誤解や偏見を招くきっかけにしかなりません。
イスラム系移民作家のファイーザ・ゲンヌの小説『明日はきっとうまくいく(Kiffe kiffe demain)』では、主人公のドリアがユーモアと希望を持ちながら移民二世として前向きに生きる姿が描かれており、暴力ではなく希望を持って困難に立ち向かう姿が示されています。
またフランス政府は現在、イスラム教の宗教行為を禁止する政教分離政策(ライシテ)を進めていて、現にフランスでは女性ムスリムの服装であるヒジャブの公共の場での着用が禁止されました。
こういった公共空間での宗教的シンボルが禁止されたことも、移民の若者たちにとってジレンマの要因の一つとなっています。

タイム誌の記事より引用
「自由・平等・友愛」を建国の理念として掲げているフランスが信仰の自由を制限しているのは矛盾を感じるという声もあります。このような見方から、フランスの移民政策に対して疑問が呈されることも少なくありません。
ほかにも、フランスでは市民の権利が出自にかかわらず平等に保障されている一方で、就職や教育の面で移民が差別や困難に直面することも多いといわれています。
たとえば、移民一世の親が教育に関心を持ちにくい場合が多く、家庭が貧困であることも、移民二世の子どもたちがフランス社会での成功を難しくしている要因とされていることもしばしば。
このような背景から移民二世の若者はしばしば疎外感を抱き、フランス社会になかなか溶け込めず、移民の統合が進みにくい現状が続いています。
移民問題の解決策は?
移民問題の解決には、互いを理解し合う姿勢が不可欠であると考えられます。
当然言うまでもなく、移民側の努力も重要です。
「郷に入っては郷に従え」という意識を踏まえて移住先の国の社会や文化を尊重しつつ、自らの文化やアイデンティティを維持する双方向の統合が求められているのです。
この実現に向けて、教育や職業訓練が必須であり、フランス語教育の強化や奨学金制度などが取り組まれています。また、移民が積極的に社会へ参画し、互いの価値観を尊重することで、摩擦の軽減とともに社会の発展が期待されます。
日本でも少子高齢化や労働力不足を背景に移民の受け入れが増える可能性が非常に高いので、異文化理解と社会統合の促進が重要となってくるでしょう。
インターネットやSNSが発達し、国を越えて人の流れが活発となっている現在、いかに異文化を理解し、共に歩み寄ろうとする姿勢をとれるかが、これからの世界を生きる人たちにとって大切となってくるのではないでしょうか。