小林製薬だから安心だと思って買っていたのに、、、
2024年3月22日、大手製薬会社の小林製薬が、自社商品のサプリメントを飲んだ人が腎疾患を発症したことが報告されたことを受け、紅麹を原料とした健康食品商品を自主回収するという出来事が起きました。
同社製造の紅麹を原料とした商品が自主回収、さらに業務用で紅麹を170社以上の商社等の取引先に販売していたことが判明。全国各地で相次いで小林製薬の紅麹を使用した商品の自主回収が行われることに。また因果関係は掴めていないものの、小林製薬のサプリメントを摂取しつづけた高齢者が死亡してしまったことも受けて、食品の安全性に対する懸念が指摘されています。
小林製薬の芳香剤や医薬品は全国のドラッグストアやスーパーに販売されているので、誰もが知っている企業だと思います。
そのため、「国産だから安心して購入してたのに」や、「大手の日本企業だから大丈夫だと思っていた」という意見が多く見られました。
しかしよくよく考えて疑問に思ったこと。それは、国産品だったら絶対安全なんでしょうか?大手有名企業の商品は本当に信頼できるのでしょうか?
国産のものが絶対! 大手有名企業なら安心! というような根拠のない極端な「国産至上主義」は、ある意味一種のカルトのようなものだと思うのです。
国産品へのこだわり
農水省のHPにこんなアンケートがありました。
肉類を購入するとき、同じ種類の商品で日本産と外国産の価格差があった場合、日本産が外国産より高くても日本産を購入するか、という質問があったのですが、このとき日本産のものを購入すると回答した人の割合がなんと76.3%にも上ったのです。日本産の肉類を選ぶ理由としては74.6%の人が、安全であることを理由として挙げています。
一方で、肉類の購入に際して外国産を選ぶ理由としては62.6%の人が、国産よりも安価であることを理由として挙げています。この時、安全性を理由に外国産の肉を購入するという人の割合は、わずか3.1%でした。
他にも、「紀平真理子のオランダ通信」という特集にこんなことが書かれていました。
「農産物を購入する際、価格が高くても国産品を選択するか」
こんな質問を投げかけたところ、日本人はほぼ全員が「国産品を選択する」と回答したのに対し、外国人は「可能な限り国産を選ぶ」と回答したのは1人だけだったそう。なかでも日本人の共通的な意見としては「国産は安全でおいしい」、「輸入品は信用できない。とくに中国産や韓国産はNG」という意見が多かったとのこと。
ここからわかるように、総じて「国産のものは安全安心」というイメージが社会に根強く浸透していることがうかがえます。
また紀平さんの特集でも言及されてるとおり、とりわけ日本では中国産や韓国産の食品が忌避される傾向にあります。この要因は色々あると思いますが、一番はやはり、過去に中国産や韓国産の食品に関する品質や安全性の問題が報告されたことがあるからでしょう。
たとえば、中国産の鰻加工品から合成抗菌剤のマラカイトグリーンが検出された事例があります。このマラカイトグリーンは日本では原則、食肉や食鳥卵および魚介類には使われてはいけないことが食品衛生法で定められています。
マラカイトグリーンは殺菌剤で、染色にも使われているものです。発癌性の可能性が指摘されてから、日本では原則食品に対して使用してはいけないことになっています。
他にも中国産のペットフードが原因で命を落としたペットがいたりとか、中国産の冷凍餃子を食べて入院したという事例もあります。これらの事件は比較的記憶に新しいものですよね。
このように日本の安全基準を満たさない食品や、日本で使用されてはいけない添加物が使用された食品が、特に中国や韓国から多く流通されていたこともあり、たびたび問題視されつづけてきました。
そして時にはそういった不祥事から派生して、外国産に対する根拠のない偏見や固定概念が醸成されてきたのは事実としてあります。特にマスコミやSNSによって、負のイメージが強調されがちです。(中韓に対する政治的理由や国民感情もあると思いますが。。。)
もう少し論理的に…?
「中国産や韓国産は危険、安全な国産のものを食べたい」
よくYouTubeや掲示板にこんなコメントがあります。
こういうコメントを見たときに感じた単純な疑問は、「なぜ国産は安全で、外国産は危険だと言い切れるんだろう?」でした。
もちろん心情的に国産品を食べたい気持ちはすごくわかります。地元の生産者を応援したり、国内の企業を応援したいという理由で僕も国産の食べ物を食べることもありますし、そういった理由であればすごく理にかなってると思います。
しかしそういった理由とは別で、はなから外国産を危険だと決めつけて毛嫌いし、国産に対して根拠のない過度な信頼を寄せるのはいかがなものか、、思うに、私たちは”大手”や”国産“というブランド”に対して、あまりにも盲目的に信じすぎてしまっているのではないでしょうか。
冷静になって考えてみると、まず食品を誰がどこでどのように作っているかという実際の生産現場は、国産であろうが外国産であろうが、大手企業が作ろうが中小企業が作ろうが、消費者は直接目にすることはできません。この点で言えば国産も外国産もある意味同じ立ち位置です。つまり、現場で何が起きているのかは、消費者は何もわからないのです。
よくイトーヨーカドーに行くと「顔が見える食品」みたいなので、生産者の顔写真がパッケージに載っている生鮮野菜を目にします。イトーヨーカドーの「顔が見える食品」のHPには実際の野菜の生産の様子や、生産者の言葉がまとめられた動画を視聴することができます。少なくとも名前や顔写真が世界中に公表されるわけですから、消費者にとっては安心感を持ちやすいですよね!
こういう一部の例外は別ですが、消費者にとって生産現場は原則的にはわからないわけです。把握できない以上、国産(外国産)が絶対安心である(ではない)とは言い切れないでしょう。
また国産・外国産に関わらず、食品に含まれる菌数が基準よりも多かったり、日本で使用できない添加物が入っていたりすれば、国内で販売することができません。販売できる食品は、食べてもほとんど健康に影響を及ぼさないようなものだけとなっています。
カルトとの共通点
「自分は国産品だけを食べるように心掛けている」
というコメントもたまに聞きますが、これは殆ど不可能に近いです。
これは何故かというと、日本の食料自給率は世界と比べても低いため、国産品だけで食事を作るとなるとかなり過酷だからです。そのため現実では、輸入された外国産の食品に頼らざるを得ない状況となっています。

肉や卵、大豆といった主要農産物は外国産を取り入れないと殆ど賄えないという結果に。
(キューピーのHPより引用)
でも野菜やお肉は国産が多いじゃないか!
と思いがちですが、残念ながら肉や、野菜を作る時の肥料や餌は国内品だけでは賄えていません。業務用で使われる飼料などは殆どが外国産なのです。肉自体は国産でも、その肉を作るために使われた餌は外国産が多いので、すべてを合わせると「国産しか食べない、外国産を排除する」というのはほぼ不可能に近いんです。
極端な例えかもしれませんが、たまに思うのは行き過ぎた国産至上主義は一種のカルトのようなものではないか、ということです。
カルトとは過激的な新興宗教団体のことですが、そこから転じてある人物や物事に対して熱狂的な信者であることも指します。
カルトでは組織のリーダー(教祖)や、特定のイデオロギーに対する盲目的な信頼と敬愛が見られる傾向にあります。それと同様に、「国産至上主義者」も国産のものに対する盲目的な信頼が生じ、絶対視する傾向があるのではないでしょうか。
上にも書いたとおり、一口に食品といっても、品質や信頼性は各々異なってくるため、一律に「国産だから絶対安全・外国産はなんだか得体が知れないから危ない」と決めつけるのではなく、客観的な評価と選択を消費者一人一人がしていく必要があると思います。
今回の小林製薬騒動で、いわゆるMade in Japanの安全神話が崩れつつあります。私たち消費者は、国産至上主義や安全神話に盲目的に依存するのではなく、客観的な情報と自己の判断力を活用して、より慎重に商品を選択していくことが大切なのではないでしょうか。
参考文献
・農林水産省、アンケート「Q12a. 日本産を選ぶ理由(複数回答)<1>グループ・Q12b. 外国産を選ぶ理由(複数回答)・Q13. 食べ物を購入するとき、同じ種類の食品で日本産と外国産の価格差があった場合の選択について【肉類(牛肉や豚肉など)】」
・紀平真理子、「なぜ日本人はMade in Japanにこだわるのか?(1)」、農業経営者 2014年 3月号